2013年10月21日月曜日

【書評050】「未来の働き方を考えよう」ちきりん

「未来の働き方を考えよう」ちきりん
URL:http://goo.gl/EHnNf2

概要:

いい大学に入って、大企業に就職すれば、定年までのレールに乗って何も考えないで生きていける時代は終わ
ったし、変わったと主張し新しい生き方を提示する本。



感想:

混乱Loverと本人も自称するように、著者は変化を楽しめる人。バブル崩壊後ぐらいからとてもつまらないと感じていたようだが、インターネットの普及から徐々にいろいろなモノが変化、シフトしていると実感するようになる。


IT革命による「大組織」から「個人」へ、グローバリゼーションによる「先進国」から「新興国」へ
人生の長期化による「ストック」から「フロー」へ。
こういう変化を革命的変化と呼び説明を行います。
そして、大企業で働くことの合理性が毀損し始めていると主張し、大企業を辞めることにより得られるものの価値に重きを置きます。


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・勤務時間や服装に求められる、日常的な規律からの自由

・個人生活を優先する自由
(恒常的な長時間労働を当然とし、有給休暇は簡単には取れないものだという不文律がある大企業は今でも多い)

・人生の一時期、数ヶ月から数年単位で子育てや介護に専念したり、留学したり、退職・復職しながら働くといった、働き方の柔軟性

・個人として意見を表明する自由
(ネット上での個人の発信を規制する組織も・・)

・組織の序列からの自由
(実力に関わらず何年もの下積みが求められる)

・やりたい仕事をやることの価値
(担当業務は辞令で決まり、希望部署に異動するには、何年も粘り強く交渉する必要がある)

・くだらない形式的な仕事に人生の時間を奪われない自由

(大組織には、誰も読み返さない会議の議事録でも、何度も練り直して上司のチェックを受けて完成させるといった、意味の分からない仕事がたくさんある)

(P94)
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こういう価値観を持つ人に取って、大企業の価値・メリットは「絶対、手放すべきではないお宝」では無くなっている。そしてもう一つ、「間欠泉的キャリア」を選ぶことを進めています。


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これに対して、需要が圧倒的に大きな市場で手に職をつければ、それとは一線を画した新しい働き方が手に入ります。それは一定期間働くごとに、リフレッシュや個人の趣味の為、そして家族のために、数ヶ月の休みを挟むという、いわば「間欠泉的なキャリア」です。

大組織に一生囲われて生きる「安泰だけれど40年以上中断出来ないキャリア」と「5年働いて数ヶ月休む」、「10年働いて2年留学する」、「3年働いて、半年は専業主夫」といった自由度がある間欠泉的キャリア。みなさんはどちらを、好ましい働き方だと思われるでしょう?
(P100)
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この著者が記す、人間的な生活と仕事。本当の意味でのワークライフバランスに関してはとても明確で分かりやすい基準です。そんなに無理して何が残るの?という根源的な問いを突きつけられたとき、我々はどういう風な顔をして答えることができるのでしょうか?

とても刺激的で、行動を起こさせる本だと思いました。人間らしい生き方を楽しく無理せず過ごしたいと思いました。



2013年10月16日水曜日

【書評049】「新しい市場のつくりかた」三宅秀道

「新しい市場のつくりかた」三宅秀道
URL:http://goo.gl/nTxBZv

概要:

東京大学大学院ものづくり経営研究センターを経て、現東海大学講師をつとめる著者が多くの事例を紹介しながら、新しい市場とはどのように形成していくのかを説明する


感想:

いろんな事例が載っている本書は読んでてとても勉強になりました。ただ、メーカー観点が強いエピソードが多かったです。その中で普遍的なテーマである組織についての事例が面白いです。

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第2次世界大戦の記録を読むと、日本軍が陥った欠陥の一つに、失敗をした将官を罰することができないということがあります。失敗をした将官を罰すると、将官同士の和が乱れ、彼らのつくったコミュニティがバラバラになってしまうからです。それと似た話しは、現代でも企業を取材していて頻繁に耳にします。

経営学は、近代量産工業が登場してから、大規模なビジネス組織が人類の社会で活躍するようになり、その大規模な組織がどのように機能しているのかを研究しようとして体系化された知識です。しかしこの問題は、おそらくは近代よりはるか以前から私たちが直面しているビジネス組織以前の人間集団の問題です。
(P126)
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明確にある、人間集団の問題。「他の部署の問題ですから」「それはそうなんですけどなかなかウチだと難しいんですよ」著者はこういう言い方をする組織に発展は無いと断言します。組織の発展は経済学ではなく、それ以前の人間集団心理が大きく影響しています。「あの人は役職者だから偉い」と言う観点でいる限りその組織、企業の発展は無いと記します。

そして、新しい市場を作る人、生み出す人を下記の通り記します。

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自分と違う考えの人、自分と立場が違う人、自分と違う欲求を持っている人、自分と違う技術や経営資源を持っている人と、他者と他者として真っ向から交流し情報を取ってきてこそ未整理の混沌の中から良い偶然を必然として発生させることができる。それを社内にもって帰ってきて、取り込んで、新しい市場想像につなげる、そういう生き方が確かにあるのです。

それと共通する土壌にあるのが、今日本中で流行している病だと思いますが、「何でも検索してわかったつもりになる」症候群です。意味を説明するまでもないでしょうが、あくまで予習の段階で補助的にしか使うべきでないインターネット上の情報にアクセスして、検索エンジンに水先案内を委ねているだけの人がなんと多いことでしょう。

あらかじめ知りたいと思っていた情報に目を通すだけで日が暮れる」状態で、しかし、その「あらかじめ」の外へでない限りは、自分で手間をかけ、他者と交わってこそ手に入る種類の情報は手に入りません。
(P350)
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この「あらかじめ」想定していた内容の外側、「未知への畏れ」を失った組織は新しい価値を創造することができない、とまとめます。

これは著者の強烈な皮肉で、僕たちはインターネットで知らないことは無くなった(前提として検索して調べると言う行為がある)が、そのあらかじめ知らないと思ってる範疇に留まることになり、新しい市場や価値を見出すことが出来なくなってきている。これ、確かにそうだなと思いました。

「あらかじめ」の外側への柔軟な対応。心がけたいです。





2013年10月10日木曜日

【書評048】「なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?」片山修

「なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?」片山修
URL:http://goo.gl/CUGT7q

概要:

ちょっと古い本。少し前サントリーの人からもらったので。でもプレモルが現在でもまだ売れているしブランドも確立出来ているのを考えれば、書いてあることはかなり正しい。


感想:

このサントリーのビール事業、とても有名なのでご存知だと思います。サントリーは数年前までは売れないウィスキーでなんとかしのいでいた会社でした。株式公開を行っておらず、一族経営だったため外部からの余計な圧力が無く事業に集中(固執)できたのが成功の原因と言われています。

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だいいち、サントリーのビール事業は1963年の参入以来、45年にわたって1円の利益も出せない「暗黒時代」が続いていた。その累積の赤字額たるや天文学的数字にのぼるとまで揶揄されていた。
(P26)
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そんな中、撤退もせずに徹底的にビールを研究。「営業」「開発」「生産」「ブランド」そして、ぶれない「経営」これらの要素と時代の流れに乗ったこともありプレミアム・モルツは成功を収める。ビール業界の圧倒的NO1であるスーパードライと並ぶぐらいまで成長出来た。では、プレモルが乗ることが出来た時代の流れとはどういうものか。

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人々はいまや、マイホームや高級車など、ステータスとしての「幸福」は求めない。背伸びせずとも、手に入れられる幸せを求めている。人とも比較しない。ブランド品で身を飾るより、自分らしい服を自分らしく着こなしたいと思う。身近でいい。小さくていい。自分自身が満足できる「幸福」を求めているのだ。

ただし、住宅にしても、車にしても食べ物にしても、こだわっているものがある。それは「本物」であるということであり、「本質」であるということである。「プレモル」は現代人が求める「本物」や「本質」のニーズに合致している。最高のものだけが持つ「本質」が「プレモル」にはあるからである。
(P98)
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こういう画一的な時代の流れから個への流れにちょっとした贅沢を提供することによってプレモルは立ち位置を確立した。スーパードライと戦うのでは無く別の価値を提供することによって成功したのである。それをハレの日と定義づけしています。

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「プレモル」はいわば ”プチ贅沢” です。基本は ”ハレの日” に飲んでもらうものですが、 ”ハレの日”
にも大小がありますね。上司に褒められたりだとか、取引先でプレゼンがうまくいったとか、さまざまなシチュエーションで
”小ハレの日”を作って「プレモル」を飲む機会を増やす提案をしていきたいと思います。
(P236)
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これ、3年前の本だと書きました。プレモルの後、サントリーは同様の考え方でハイボールを成功させてます。炭酸とレモンでウィスキーを割るなんて場末の居酒屋のメニューだと言われていたハイボールもいまやどこでも飲めるようになってます。

このプレモルから考えるのは経営の「ぶれなさ」だと思いました。圧倒的にぶれない。だから社員も信じて突き進める。突き進んだ先に大成功が待っていた。ただ45年かかりましたが。これは希有な例だと思うけどこういうぶれない経営って大事だなと改めて思いました。